2017/04/13(木)19:00〜

自社SaaSの認知拡大、どうやってる? -調整さん×yenta Meetup 〜SaaSのマーケティング戦略〜

日々進化し続け、最新サービスを提供できるのが最大のメリットともいえるSaaS。とはいえ、既存のオンプレミスサービスに比較して安価なため、数を売り上げる必要があることから、認知拡大に日々苦労を重ねているベンチャー企業が多いのもまた真実です。

そういった企業担当者向けにリクルートホールディングスは2017年4月13日、『調整さん×yenta Meetup 〜SaaSのマーケティング戦略〜」トークセッションイベントを開催しました。

『調整さん」は、リクルートホールディングスが運営する無料のスケジュール調整サービス。Web上で簡単に複数人との日程調整が行えます。

名を連ねている『yenta』は、アトラエが提供する完全審査制のビジネスマッチングアプリ。審査を通過したユーザー数は約8800人で、マッチング率は93.8%。これまで約45万件の出会いから、上場企業同士の提携やスタートアップ企業同士のコラボ、出資など、ゆるいつながりによってさまざまな化学反応を起こしている“プロフェッショナルネットワーキングサービス”です。

イベントでお話しいただくのは、経費精算業務支援ツールを提供するコンカーの柿野拓さんとマーケティングオートメーションツールを提供するマルケトの稲垣亮太さん。おふたりのトークセッションから、SaaSの認知拡大に必要な何が見えてくるでしょうか。

グローバル展開のコンカーとマルケト――日米間のマーケティングの違いを知る

業務で発生する出張費や接待費などさまざまな経費管理の支援ツールを提供するコンカーは、米シアトルに本社があります。米国のフォーチュン500企業におけるシェアは61%で幅広い企業規模に利用されているとのこと。日本法人は2011年設立と新しいものの、利用企業数は600社、市場シェアは53%とトップを誇ります。世界中で発生する約100兆円と言われる経費支出のうち8%を占める、8兆円を処理しており、すでに世界中の経費トレンドが把握できるほどの一大社会インフラとなっています。

マルケトは、米サンフランシスコに本社があるマーケティング専業ベンダーで、創業からわずか10年で世界約5000社が利用。日本法人が設立されてから2年9カ月とのことですが、リクルートをはじめとした大企業やベンチャー企業、さらにNPO法人も含め500人のユーザーを抱えるまでに成長しています。

両社とも、短期間で国内認知を高めていますが、まず投げかけられた質問は「広い意味を持っていたり、逆に宣伝広告費のことだけを指すこともある“マーケティング”という言葉について、どのような考えを持っているか」というものでした。

稲垣さんは、「マルケトでは、マーケティング部門がカバーする領域は非常に広範囲に及ぶ」と言います。「製品の開発から認知拡大、運用といったところだけでなく、活発に行われているユーザー主体のコミュニティのサポートを裏で行うのもマーケティング部門の仕事。もちろん、インサイドセールスや厳選した見込み客にコンタクトする営業も含まれます」。

外資系、ということもあり「働く人の価値観が多様化しているため、それぞれの事業にKPIが定められており、シンプル」だという稲垣さん。とはいえ「マーケティング部門は、直接KPIを負ってはいないものの、各部門に間接的に強い影響を与えているのも真実です」とのことでした。

コンカーの柿野さんは日米のマーケティングの違いについて次のように説明してくださいました。

「マーケティング戦略ではProduct、Promotion、Price、Placeのいわゆる4Pの中で、自社サービスをポジショニングし、社員全員でどう実践するか?という意識や心構えがまず重要だと思います。私自身のチームは大きく言えば、マーケティング、PR、インサイドセールスという3つの柱で構成されていますが、中長期の市場トレンドとお客様のニーズ、そして、コンカーが実現したいことを意識して、社内外の関係者と仕事をしています。」

「日米のマーケティングの違いですが、米国の場合は文化、言語、人種、宗教などが異なる人たちが会社という同じ環境で効率的に働く必要があるため、すべての業務プロセスを標準化し、プロセス毎に業務と役割を決め、適切な人材をはめていくというやり方をします。マーケティングプロセスも極めて構造化されていると思います。

 

一方、日本では、ものづくりと営業がビジネスの主役であるケースが多く、マーケティングという発想自体があまり浸透していないのかもしれません。いい製品を営業が売ってくる、営業が売ってくる製品がいい製品というスタイルは成長市場では極めて効率的な手法だと思います。ただ、市場が成熟してくるとお客様のニーズが多様化し、低価格化が進み、個別対応で利益確保ができなくなります。そんな市場の中で、マーケティングに解決のヒントを求める企業が、日本でも増えて来ているという状況だと思います。」

 

柿野さんは、ビジネス環境の違いについても教えてくれました。
「米国の場合、イノベーションが非常に活発で、違法でなければ新しいコンセプトで社会を変えていこうという人材や企業が多数存在します。また、人材も流動的なため、いい意味で知識移転が起き、さらに変化にドライブがかかります。また、サービスを購買する企業側のエグゼクティブも短期で結果を出すプレッシャーに晒されているケースが多く、極めて短期間に大胆な意思決定をするケースが多いと思います。

 

一方、日本市場の場合は、取引の関係や日常の関係性に留意しながら、社内外のステイクホルダーとの合意形成を求めるケースが多く、意思決定に時間がかかります。ですので、お客様にきめ細やかな対応を行い、信頼関係の構築を通じて、お客様の検討状況を正しく把握、きっちり数字を作ってくる営業の存在が極めて重要だと思います。」と言及してくださいました。

日米間のマーケティングについての意識の違い

・構造化されたマーケティングプロセスとシンプルなKPI設定(米国)

・ものづくりと営業でビジネスを作る、マーケティングはこれから(日本)

・エグゼクティブ層が目的を達成するための合理的な購買意思決定を短期間で行う(米国)

・関係性に配慮しつつ、合意形成を経ながら購買意思決定を長期間で行う(日本)

認知拡大のために踏むべきプロセスとは?

では、そのような中で、どのように国内認知を高めていったのでしょうか。

稲垣さんによれば、「日本法人の営業開始は2014年6月。当初は『マルケト』と言っても『え?』と聞き返されるほど認知度が低い」状態だったようです。でも「海外ではある程度の認知度があった。そして、国内でも以前からグローバル企業では使ってくださっているところがあったようです。なので、立ち上げ初期はマーケティングにご協力頂きやすい急成長スタートアップ企業や、既に利用してもらっているグローバル企業の事例を出させて頂いたり、ある程度したら自社製品と相性に良い業界にターゲットを絞って自社から能動的にアプローチして、その事例をまた公開して、という事をしていました」とその方法を披露してくださいました。

 

「一般論ですが、その業界構造や文化によってもアプローチの方法は変わってくると思います。例えば横並び意識の高い業界であれば、いかにその業界の上位層に使って頂けるかが重要になると思います」と稲垣さん。「また、アプローチしてもすぐにお取引が始まるお客様は一定の割合を超える事はありませんので、そこはマーケティング部門が長期的なお客様との関係維持・強化を担ってくれていいます。このマーケティング(インサイドセールスを含む)とフィールドセールスの密な連携もとても重要かと思います」。

 

柿野さんは、商材の違いで異なるマーケティングプロセスについても説明してくださいました。
「前職では、オンプレミスソリューションを扱っていましたので、案件単価の大きい案件に集中し、一発逆転も可能でした。しかし、コンカーはクラウドソリューション。案件単価が比較的小さく、蓄積されたデータを分析、極めてリニアに売上予測をしながら、ビジネスを作っていくアプローチです。立ち上げ期はマーケティングリソースも限られていましたので、ターゲティングが重要になります。やらない市場を決めればバリュー、メッセージ、コンテンツをより具体的に考えられますし、どう見せるか?というブランディングのイメージの作りやすくなります。」

「マーケティングで重要なのはプロセス、バリュー、インパクトの三つだと思います。その中で最も大切で、最初に手をつけるべきはプロセスだと思います。マーケティング施策の効果検証ができるマーケティングプラットフォームがなければ、改善活動に繋がりませんし、説明責任を果たすこともできません。まずはマーケティングのプロセス整備に注力すべきだと思います。」(柿野さん)

 

また「B to BマーケティングはB to Cマーケティングより取り組みやすい」と柿野さん。
なぜなら「B to Bマーケティングで訴求すべきポイントは企業の合理性であり、ターゲット企業もかなり限定できるため、マーケティング施策で高い投資対効果を狙うことができます。

 

一方、一般消費財は個人の嗜好の数だけバリュードライバーが存在し、ターゲットも一般の人たちです。綿密な計画を立て、改善活動を日々行わないと期待通りの結果が得られないケースが多いと思います。B to Bマーケティングは対象顧客企業が考えるであろう合理性とは何か?という視点を持てば、比較的進めやすいのでは?と思います。」とB to Bマーケティングに取り組むマーケターたちの背中を押す発言をしてくださいました。

国内認知の拡大方法

・認知または利用している企業を引き合いに出したマーケティング活動

・業界内でバリューのある企業への働きかけ

・エンゲージメントエコノミーを重視した、セールス&マーケティングの一体化活動

・合理的・弾力性のあるプラットフォームの上で回せるプロセスの構築

・やらない市場を決めるターゲティング

・ターゲット企業が求めている合理性がB to Bマーケティング施策のヒント

「綿密にスコアを取り、しっかり温める」

マルケト流クロージングへの工夫

続いて、マーケティングオートメーションツールを販売しているマルケトが、どのように認知からクロージングへとつないでいくのか、そのプロセスについて稲垣さんが具体的な説明をしてくださいました。

「マルケトは、自社製品を徹底的に活用しています。ウェブ・Eメール・オフラインイベント等の様々なお客様の接点の情報を蓄積して、今この瞬間に・どのお客様が・どのサービスに・どの程度の関心を持っているのかをスコアリングの機能等で分析しています。そして、お客様にとって必要であろうというタイミングで、初めてインサイドセールスがお電話でご連絡します。これも単なるアポイントの取得ではありません。そのお客様の業務課題を細かくヒアリングさせて頂き、マルケトで実現可能な解決策の仮説が立ったタイミングで、初めて我々フィールドセールスが初めてお邪魔する、という感じです」(稲垣さん)

 

このような地道な活動で認知を高め、ユーザー数を拡大してきたマルケトですが、「ツールを導入すれば終わりではない」と稲垣さん。

 

「自社製品に圧倒的な競争力があるという自負はあります。ただ、良いツールを導入すればそれだけで良い訳ではなく、その仕組みの上でどのような施策を回すか、どのようなチームを作るかも非常に重要です。そのため、ユーザーの方をサポートする様々な仕組み作りや、導入・運用をサポートするマルケトのパートナー企業のエコシステム作り等に、ツール提供側の立場から全力で取り組んでいます」と説明。

 

「あえて言うなら所詮ツールはツールで。マーケターの施策にレバレッジを効かせるもの。また、導入は手段であって目的ではない本来の目的である収益拡大を実現に、焦点を当て続けることが重要」とツール導入に対する考え方の大切さを教えてくださいました。

 

そうすれば「お客様の課題をお聞きし、解決方法が自社製品ではないなと分かれば、他社の製品・サービスをご紹介する事もある。そうして長期的に良好な関係を作り、いつか本当に必要なタイミングでまたお声がけ頂きお取引につながる。これができるのがマルケトを活用したマーケティング&セールスの醍醐味」とのことでした。

マルケト流クロージングプロセス

・サイトにあるコンテンツに対するアナリティクスを綿密に取得してスコア化

・段階に応じてインサイドセールス部隊またはフィールドセールス部隊によるアプローチ

Tips:プロダクトのバリューを高めるため、優れたアライアンスパートナーとの関係を構築

国内マーケティング業界の未来は明るい

実はGreat Place to Workによる「働きがいのある会社ランキング(従業員数25-99人部門) 2017」で1位に選出されたマルケト。4月末には年1回の世界大会があり、優れたユーザーを表彰する「RevvieAward」が開催されます。

 

「従業員にとって働きがいのある環境を整えたり、マーケティングに取り組んでいる企業を表彰したりユーザー会を催したりなどしていますが、日本のマーケター業界を盛り上げていこう、というのが発想の元となっているのでしょうか」というモデレーターに、「実は日本のマーケターはグローバルで見てもかなりイケてるんですよ!」と稲垣さん。

 

「『Revvie Award』は米国本社で行われますが、今年は日本からも最終選考に4社ノミネートされています。つまり、すでに世界のマーケターと肩を並べて戦えるレベルにいるという事です。更に、マルケトを使いこなして成果を出して社内外で評価されているマーケターはどんどん増えています。マーケターによるマーケターのためのツールを提供しているマルケトとしては、これからも単なるユーザーとベンダーという関係を超えて、同士として日本のマーケティング業界を盛り上げていくという気持ちで取り組んでおり、楽しくて仕方ありません」と明るい展望を語ってくださいました。

 

また、柿野さんは「マーケティングはサプライチェーンに似ている」と例えて説明してくださいました。

 

「自動車は、たくさんの部品で構成されていますが、どれかひとつでも欠けていれば、完成品になりません。マーケティングプロセスも似たようなところがあり、スループットのボトルネックがあると “受注”という完成品になりません。ボトルネックは製品なのか、価格なのか、それともマーケティングなのか、営業なのか……。問題の特定ができれば、改善活動につながります。
ただ、最近、難しいなぁと思うポイントは経営管理のレベルを上げれば、確かに改善スピードは上がるのですが、もうちょっと人間的な熱っぽいものを大切にしないと、次の変化が来た時の創意工夫の力まで落ちてしまうと思います。ソフトウェア産業は人で成り立っている産業です。これからも売れる仕組み作りをしつつ、社員の皆さんや協力してくれるパートナーの皆様の情熱の間で楽しく仕事をしていきたいと思っています。」(柿野さん)

グローバルに展開し、成長し続けるコンカーとマルケト。柿野さんも稲垣さんも、「マーケティング」という言葉の枠にとらわれず、自社製品にかかわる全体をよく見渡し、将来を見据え、クロージングに至るプロセスをしっかりと練り上げることで実績を積み重ねて、国内での認知拡大を高めていったことがよくわかるお話をしてくださいました。

惜しげもなくナレッジを披露し、突っ込んだ質問にも気さくに回答してくださった柿野さん、稲垣さん、ありがとうございました。